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トーヨー化工株式会社の再生事例

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商工にっぽん9月号より転写
アネモスvol.10に掲載
 

「会社を残すためなら何でもやる」と全員が団結  

トーヨー化工が行なったこと

1、悪化する経営状況を、パートを含めた全従業員につつみ隠さず正直に伝えた
2、幹部と中堅・若手社員、パート社員までがお互いを激励し、団結した。
3、社長と労働組合の〝労使〝が一つになり、債権者の支援を得るために走り回った。

昨年民事再生法を申請し、再起を目指すトーヨー化工。会社が存続しているのは、法的再建を図ったからではない。戦い抜こうとする従業員の強い意志があったからである。
 

 

破綻の日から1年半の会社がよみがえった

1500万円の支払手形の資金繰りがどうしてもつかない。決済日まであと3日・・・という崖っぷちの状況の中で、民事再生法を申請。
1年半が経過した今、社員、パート合わせて155名が一丸となり、会社が息を吹き返しはじめた。ゴム長靴メーカーのトーヨー化工(本社:札幌市)である。
辻村忠男社長が振り返る。「あと3年、いやもう1年・・・。その連続で懸命にやってきたが、いよいよ万策尽きて、ついに破産かと覚悟しました。債権者への 申し訳ない気持ちと、従業員を路頭に迷わせる不甲斐なさ。それで頭の中が一杯になりながら、弁護士の先生を訪ねた。昨年3月20日のことでした」
頬がげっそりヤセこけた辻村社長に、弁護士が返したのは怒鳴り声にも近い檄だった。
「最後の1分1秒まで絶対に諦めちゃダメだ!あと10日で民事再生法が施行される。再建にトライしてみないか。そう簡単には運ばないかもしれない。しかしいま必要なのは、社長と、従業員のもう1度這い上がろうという強い意志です」
 

「潰すわけにはいかない」思いを共有してきた

4月7日夕方、辻村社長は従業員を集め、民事再生法を申請したことを告げた。だがそこには沈んだ空気など少しもなかったという。
「破綻したとなったら、これから自分たちはどうなるんだろう、と動揺するのが普通でしょう。ところが動揺は全く見られなかった。」
むしろ社長がんばりましょうよ、というような表情に辻村社長は「大きく勇気付けられた」という。
だがとてつもないピンチにあって、一致団結できる風土を日頃から築いてきたのは、実は社長自身だった。
経営状況が良くても悪くても、それを包み隠さずありのままを従業員に伝える姿勢を会社設立以来、貫いてきたのだ。
「中国製品の攻勢を受けて、国内の長靴業界が淘汰の波を受けていること。北海道でも20社が4社に減ったこと。そんな市場の分析を交えながら、会社の利益や売上が何故かこうしているのかを、昔から毎月、パートを含めた社員に話して聞かせてきました。
それは危機感の浸透なんていうカッコいいものじゃない。苦しくても固定客や問屋さんのために、うちは絶対に消えるわけにはいかないんだという心意気みたいなもの。それをいつもみんなで認識してきたつもりです」
社長の口から出る〝厳しい状況〝は年々深刻さを増したが、逆にその分、従業員には「自分たちがしっかりしなければ」という思いがつのっていったのだ。
 

「労働組合の闘争資金を使ってください」

もうひとつ、土壇場ではっきした強さがある。係長以下の中堅・若手社員らによる現場の団結力である。
彼らはトーヨー化工の労働組合員という別の顔を持つ。ただし賃上げだ、待遇改善だと、権利ばかり主張する姿勢は一切ない。むしろ業績が悪化した3~4年前から、「会社に協力できることはないか」と、社長の支援部隊さながらやってきた。
「組合の幹部とはいつも腹を割って語り合ってきました。だから3年前の賞与の大幅カットや昇給停止も受け入れてくれた。ついに給料も遅配という事態になっ たときには、『労組の闘争資金を使ってほしい。賃金カットも了解する』とまで言ってくれた。頭が下がりました」(辻村社長)
また管理職(非組合員)の給料遅配においても、組合員か「われわれと同様に闘争資金を融通しては」との提案が出たり、パート社員たちもお互いに励ましあうなど、心を一つにしていった。
結果、不幸にして破綻の日は迎えたが、それを誰もが新たな出発点ととらえた。

 

一人一人の思いが債権者を動かした

社内の熱意を、今度は外に向かって行動で示さなければならない。
民事再生法の申請後、辻村社長はすぐさま全国の主要債権企業を訪れ、頭を下げて歩いた。全員の思いを胸に、「チャンスを与えてください」と件名に頼みこんだ。
最大の壁は、97年に破綻した北海道拓殖銀行からRCC(整理回収機構)に引き継がれた3億円の借入金だった。今度はみんなで動いた。
「RCCに債権協力を求めるためパートを含む全社員の嘆願書を用意し、更には関係取引き先の署名を実に66社(債権者の約6割)から集めてくれた。絶対に会社は潰さないという彼らの執念は、もう私以上でした」(辻村社長)
再起を目指してから1年後の今年4月10日、同社の債権者集会が開かれ、再建計画は債権者のほぼ100%近い同意を得た。
通常は、民事再生法の認可条件である過半数の同意すらも難しいことを考えると、異例の支持率だったと言える。
申立代理人である弁護士の「この会社は必ず生き返る」と訴える粘り強い交渉もあって、RCCは前例のない20年の長期返済計画を認めた。
RCC側は、「誠実な返済意欲、情報開示の努力、納入先の支持などを厳格に判断した結果」だとした。
再建に向けての今後の方針を辻村社長に尋ねると、こう返ってきた。
「不満なく働ける環境が第一です。賞与がないのに、みんなあんなに懸命だ。苦労を報いてやれる日が来るまで、彼らの気持ちが切れないように、今までどおり接していく。毎日、毎日です」
71歳の経営者は〝まだまだ現役〝を貫く覚悟だ。

 

債権企業に学ぶ全社一丸の築き方  債権の成否は数字じゃない。人だ。

 

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弁護士 村松弘康

再建中のトーヨー化工を側面から支える弁護士。
多くの企業破綻、復活の姿を見つづけてきた再建のプロは、「社長と社員、つまり人と人とが一枚岩になれた会社だけ生き返る」と断言する。

 

「手を差しのべたい」と思わせる企業がある

経営破たんに陥った社長さんが、私の事務所に数多く駆け込んでこられます。
「これは99%、難しい」と判断するケースが多いのですが、なかには、たった1%の可能性にかけてみたくなる企業があります。
トーヨー化工はまさしくそのケースでした。
ゴム長靴という衰退産業であること。RCC(整理回収機構)への負債という大きな壁。数字をはじいて客観的に判断すれば99%「破産」です。
私を動かした1%の可能性とは従業員の再建にかける熱意でした。
労組の委員長・早坂さんは私に向かって、「全員で行商でもなんでもやります!」と訴えてきた。皆で債権者から集めた嘆願書を持って裁判所に駆けつけ、私と一緒に交渉の席にもついた。
リーダーだけではなく、現場で働く一人ひとりが、各自の持ち場で全力を尽くした。お互いに協力し合った。
だからこそ〝奇跡〝が起こったわけです。
 

人は石垣、人は城、最後は人だ

業績不振を打開する突破口は、「人」です。ここぞというときの団結力です。そして、その力を引き出すのはトップの日々の姿勢です 。
会社を一丸にできる社長とはどういう人か。その条件をいくつか挙げます。

 

黄色点滅を自覚できる人

数字を分からない経営者がたくさんいます。ザル経営で倒産したケースを何度も見てきました。「このままだと危ない」と早期に自覚し、社員にもちゃんと伝える。それが再建の第一条件です。

 

従業員に安全と安心を与えることを第一に考える人

会社の破綻=従業員とその家族の生活を破綻させること。その責任の重さを自覚できる人だけが再建を成し遂げられる可能性がある。個人的利益を守ろうとして相談に来られても、ハッキリとお断りです。

 

誠心誠意つくす人

日頃から取引先、社員に裏表なくオープンで、誠心誠意つくす社長でなければ誰も暖かく支援などしてくれません。

 

「不退転」でのぞむ人

社長の志です。何があっても必ずやり遂げるという決意の強さです。それが従業員に伝わり、「みんなで最後まで戦おう」と団結する。
でも・・・、しか・・・、とりあえず・・・。こんな気持ちでは100%再建はムリです。

これらの姿勢は、法的再建のみならず、破綻の一歩手前の自主再建においても、全く同じです。
辻村社長は、すべての条件を備えていた。何においても透明性があった。私利私欲を持たず、会社にすべてを捧げつくしてきた。だから財産など残っていない。
トーヨー化工という会社を蘇らせたのは、民事再生法じゃない。結局は人の力だと、私は確信しています。
そしてそれが、企業再建の成否を決めるのです。
 
                                                                                  商工にっぽん9月号より転写  「アネモスvol.10」に掲載


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